極夜の畔(ほとり)で

みくるんワールド

極屋の畔(ほとり)で

「大魔王様、お待ちしておりました」
声の方を見れば、ナジーンがカウンターの向こうから頭を下げていた

「なぜ私がこの地に・・・この姿でアストルティアに居るのか不思議ですか?」
頷いた私に、ナジーンがニッコリと笑いかけた
「ここは不思議の力より守られし地
そしてユシュカの師匠である、あの御方と縁(ゆかり)のある土地なのです
ここでは私も、この姿で居続けることが叶うようです」

優雅にネクロデア式の挨拶をするナジーンの姿に目を奪われる
こういうちょっとした動作が、彼が亡国の王族の出自だということを思い出されるのだろう
ユシュカも、そんなナジーンの振る舞いに時折り見惚れていたのを私は気づいていた

扉横に掛かる絵画に私の視線がうつったことに気づいたのか、ナジーンもまた、なんとも言えない表情で絵画を見つめていた

「大魔王様はご存知でしょうか?
彼の国の、いえ・・・そこから繋がる物語を・・・」
静かに頷いた私を見ると、ナジーンもゆっくりと頷く

「まだジャイラが遺跡となる前の時代の話
夜の国の王の手助けにより、姫君がたどりついた場所がこの地なのです」
カウンターから出てくると絵画の前で一礼する
習うように私も頭を下げると
「ありがとうございます大魔王様。こちらへどうぞ」
私の前を歩くナジーンは後ろにいる私と歩調を合わせるように、ゆっくりと進む
赤いカーペットを敷き詰めた階段を降りていけば、目の前には七色に輝くヴェールを上空に纏う湖が、素晴らしい景色が広がっていた

私の口から感嘆の声がもれる

「この七色のヴェール・・・異世界ではオーロラと言うそうです
ファラザードの砂漠より生まれた砂が、この湖の上に集まる
それが長い時をかけ七色のヴェールとなっていく
あの御方が魔界で色々と調べ、やっと解明したそうです
なぜ、その様な現象がおこるのかは今でも謎のようで・・・。

ここは不思議の地
異世界では極夜と呼ばれ、一日中太陽が昇らない・・・太陽を見ることがかなわない
明けない夜・・・が、この地なのです」

『太陽の国も、この地のことは知らないだろう・・・どんな手段を使っても、知ることは叶わぬだろう』
あの御方がユシュカに呟いた言葉

「もしかするとここは、アストルティアで魔界にいちばん近い場所なのかもしれませんね」

『この美しさが魔界由来とは不思議なものだ』
「この場所に来るたびにユシュカが漏らした言葉です」

美しい湖と夜空に輝くヴェール
少しでも間近で見たい
自然に足は湖の方に向かっていた

「気に入っていただけましたでしょうか?
この建物は、様々な事情と共にユシュカが手に入れた保養地
大魔王様のアストルテイアの居城としていただけたら嬉しく思います
ファラザードより腕利きの料理人なども呼んでいます
お食事の用意をしてあります、どうぞそちらにお掛けください」

水上コテージのように湖の上に張り出しているカーペットの上に、座り心地の良さそうなソファーと大きなテーブルが乗っている
私がソファーに腰掛けるのを待っていたかのように、ナジーンが用意した数々の料理が水上テーブルの上に運ばれてくる
ファラザード特有のスパイスの香りが空腹のお腹を刺激する
フィンガーボウルで手を清め料理に手を伸ばそうと思った瞬間、西の方に不思議な空気を感じた
視線をそちらを向ければ、美しい月光色の髪の女性が湖を見つめ佇んでいた

「さすがです・・・気が付かれましたか、大魔王様
彼(か)の女性は、夜の姫君の幻です

魔神の贄(にえ)となるところを、父王によりこの地に匿われた姫
それにより夜の国は滅びの道を歩む

姫は何を思いこの地にとどまったのか・・・。
私には知るよしもありません
が、その気持ち・・・私は理解できるかもしれません
私にはユシュカがいた
暗い淵に落ちようとしている私の心を救い上げてくれたのです
彼の姫にも、ユシュカと同じ様な存在がいたのかもしれませんね

明けない夜は無いという言葉がありますが、ここには明けない夜があります

『明けなくていいじゃないか、誰にでも休養が必要だ
休むことに満足したら、夜明けが恋しくなったら、ここから出ればいい
外の世界は必ず夜明けがやってくる
いつでも見れるのだから』
これはユシュカとこの場所に来た時、よく言われた言葉です

大魔王様の旅はまだまだ続くそうですね
ここは疲れた心を癒す場所
ゆっくりと休養なさってください
そしてじゅうぶん休息がとれたら・・・。
より良い未来のために、また歩きだしてください

魔界を助けていただき、本当にありがとうございました
魔族一同より願います
大魔王様の旅路に幸多からんことを!」

END

※ハウジング記事の方からSSだけ「みくるんワールド」にも載せました

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